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最後の方になってきました が、これは私自身も関係している研究報告です。もう既に報道されているので、ごらんに なった方もいらっしゃるかもしれませんが、国民健康保険中央会が昨年から新しく行って きた調査です。特別審査委員会というのが中央会に、社保に関しては支払基金の本部に設 けられています。これは何のための委員会かといえば、普通、医療保険のレセプトの審査 は各都道府県レベルで行われるものですが、1カ月の請求が45万点以上、 450万円以上の 高額レセプトに関しては、連合会で割り振って東京に送られ、そこで特別審査委員会にか けられることになっています。そういう高額医療費に関して実態調査を行おうというもの です。この報告書が発表されたのは今年7月です。私も特別審査委員会の委員の先生方と ともにこの分析に加わってきました。
 どういうものかといえば、毎月毎月高額レセプトが送られてきます。ちなみに45万点以 上の高額レセプトは、社保と国保を合わせると年間で1万件以上に達しています。調査対 象となった96年10月には高額レセプトが 348人分ありました。中には月の途中で転院して 2件出ている人もいました。この調査をしたのは、今まで特別審査委員会でも毎月、今月 はこれ、今月はこれというふうに審査しているわけですが、審査された被保険者がその後 どうなったのかがわからなかったわけです。
 今まで、マスコミなどによく出てくる高額医療費の実態はどうかという報道は、大抵健 保組合連合会が毎年公表する高額医療費共同事業に関する報告に基づいています。健康保 険組合連合会の共同事業とは、高額な医療費の請求が出ると小規模の健保組合の中には財 政が圧迫されるので、 1,000万を超える高額医療費に関してはお互いに相互扶助のような 制度を持っています。その給付実績を公表しているわけです。ここでいう高額医療とは、 健保連の場合はもっと基準が上で、 100万点、つまり 1,000万円を超える医療費を発表し ています。
 その報告をみると、高額医療が行なわれた後の転帰を見ると、死亡、死亡、死亡となっ ています。その報道ばかりが一人歩きしてしまって、国民全体の中に「高額医療というの は結局みんな助からないのだ、助かるものだったら幾らかけようといいかもしれないが、 どうせ助からないものに湯水のように金を注ぐのはむだではないか」もちろん健保連がそ んなことを言っているわけではありませんが、そういうイメージが漠然と広がっているよ うに思われました。そこで、本当にそうなのかという調査を国保中央会で独自にやったわ けです。
 この研究は、全国の国民健康保険連合会の協力のおかげて可能であったわけで、私も研 究チームの一人として、鳥取県も含めてここで改めてお礼を言いたいと思います。96年10 月に高額レセプトに該当した 348人について、その前後の6カ月間はどうであったのか、 レセプトがあったら提出してくれというふうに協力を求めて、全国の連合会から前後6カ 月間、つまり計13カ月間について実に膨大なレセプトが集められたわけです。それにより 、少なくとも6カ月間以内に死亡したケースについては把握されたわけです。
 その後、6カ月間だけでなしに、随分時間がたったので、発表前に1年後どうだったか というのをまた確認しました。そこでわかったことは、96年10月に高額に達した 348人に ついて、6カ月後に生存していた割合が42.2%、1年後は32.2%という結果が出ました。 これは報道の見出しにもあったと思いますが、私は意外に高い数字だなと思いました。特 に国保の加入者は社保に比べて高齢者が多いということを割り引いても、非常に高い数字 です。
 私も実際に、何しろ高額レセプトですから、トイレットペーパーみたいに長ったらしい 紙が糊付けされたレセプトを一生懸命見ましたが、決して高額レセプトのすべてがむだと いうわけではない、かなりの人が助かっている、医師も何とか助けようと必死で努力して いるという雰囲気が、大体のケースについてひしひしと伝わり、実感が得られました。こ れはある意味で、今までどちらかといえば健保連などが発表しているのとはかなり違うニ ュアンスではないかと思われます。
ただ、問題は、なぜ高額になってしまったのかです。むしろこちらの方に問題があると 思います。はっきり言って、普通に治療していて45万点超えることはまずないのです。い ろいろ分類しました。例えば血友病であるとか、薬剤が非常に高額なケース、それも1つ の高額レセプトの原因ですが、区分の上で一番多かったのは、主病以外に重篤な合併症が 生じたケースです。
 つまり、腹部の手術だけでしたら、それがすんなり治癒すれば、どんな大手術でも45万 点超えることは普通あり得ないのです。45万点超えるのは、その後に合併症を生じた場合 、術後の感染症とか、特にDIC、要するに敗血性ショック等を生じた場合です。基本的 に手術というのは、緊急は別にして、手術をしたら助からない、かえってマイナスになる というケースは外科医でも絶対引き受けません。本来からいえば、がんにしても、少なく とも手術によって延命が期待できると思うからこそ、家族や患者さんにも説明してやるわ けですから、その後に合併症が生じるということは予期しないことです。したがって、医 者としては非常に不本意というか、不名誉なことというか、やはり医者も余計に焦ると思 うのです。
 それで、私は特に外科手術で合併症を生じたケースを集中的に見てみましたが、やはり 本当によくわかるのです。ちなみに高額レセプトと普通のレセプトの違うところは、普通 のレセプトではその月に行われた診療行為はわかるが、この薬が一体その月の何日に投与 されたかはわかりません。ところが、高額レセプトには日計表がついているのです。つま り1日から始まって31日まで、何日にどの薬を使ったかが書いてあります。したがって、 それ見るとその辺の経過がひしひしと伝わってきます。治療内容が日によってころころ変 わっています。とにかく毎日毎日いろんな薬を入れかわり立ちかわりトライして、わらを もすがるつもりで患者も医者も頑張っている風景がよくわかるわけです。
 これは報告書には入れませんでしたが、私は少し突っ込んだことを調査してみました。 この日計表をもとに、例えば合併症を生じた日から、1日当たりのいろんな薬、特に高額 になりやすい、これはアンソロビン、アンチトロンビン3というDICに使う薬ですが、 それの投与量などを調べたりしました。残念ながら、これは厳密な比較対象実験ではない ので、これだけでは何とも言えなかったのですが、なぜ調べたかといえば、DICなどの 重篤な合併症を生じた患者さんに、アンチトロンビン3を使っていいとなっています。現 によく使われていますが、最近、文献を調べてみると、この薬を使うことによって救命率 が上がったという報告も1つありましたが、もう1つ「何ら効果ない、使っても使わなく ても変わらない。少なくとも有害とまでは言えないが、しゃくし定規に使うべきではない 」という否定的な発表が外国の文献であったのです。それを見て、私も非常に興味を持っ て調べて、1日単位で出したわけです。時間的な制約があったので、件数は非常に少なか ったのですが、何しろ紙の日計表から書き写してやるという大変な作業でした。
 たまたまアンチトロンビン3のグラフを入れましたが、ヘパリンであるとか、アルブビ ンであるとか、そういう特に重症者でよく使われる薬剤などについて調べました。これに 関しては、特に有効であるとか、一応死亡例と生存例と分けて調べてみましたが、それは あまり意味がありません。なぜなら、有効性というのは、同じような状態の患者さんで、 片一方には投与する、片一方には投与しないというふうに、無作為割り付けで比較するこ とが方法論として必要だからです。それをしていないから、結論としては何も出せないの ですが、そういうことにトライしてみたわけです。